学生時代に書いた文章が出てきたので、ちょっとリライトして再掲。当時にしてはそこそこ反響があったような。今とずいぶん芸風が違います。
どうぞ。
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「バイトー、烏龍茶取ってこーい」
開店セールに沸き立つスーパーのバックヤードで主任の声が響く。ここは千葉市のとあるスーパーマーケット。僕はオープニングスタッフとして品出しのバイトをしていた。
絶対指令とも言える主任の声に脊髄反射で返事をし、もう一人のバイトを伴って在庫のある駐車場隅の仮設テントへ赴く。
首尾よく烏龍茶が詰まった台車を発見し、その様を推し量る。ミニコンテナ然とした台車にうずたかく積まれた烏龍茶。その総重量は300kgを下らないだろう。
想定外の重さに苦戦しながらも、どうにか台車をテントから引きずり出し裏口へと向かう二人。そこへ強大な障害が立ちふさがる。
坂。
普段は気にも留めない10メートル程度の小さな坂。だが、この巨大な水塊の前にあってはなんと大きな障害であろうか。
与えられたミッションの困難さにうろたえる二人。しかし主任の命を遂行しないという選択肢は存在しない。
「いこう」
男達の目に決意の炎が宿る。
いくばくかの助走をつけ台車を坂道へ押し込む二人。その様はラグビーのスクラムさながらだ。
威勢よく坂を登り始めた台車。
が、水塊に働く重力が二人の気合をかき消すのに時間はほとんど必要なかった。うなる二人をあざ笑うように台車はその歩みを緩めていく。
そして訪れた一瞬の静寂。それは野獣が目覚めた瞬間であった。
危険を察して身を翻した二人を後に、烏龍茶はその巨体を揺らしながら猛然と加速していく。坂を下りきったそれは、頂点に達した速度のまま猛牛のごとく駐車場の壁へ突進した。
鳴り響く轟音。
はじけ飛ぶ烏龍茶。
駆けつける警備員。
こうしてバイトの目に宿った決意の炎は、衝突の熱エネルギーとなって大気へ霧散し、主任の鉄拳となってその身に降り注いだ。
そして今日も客は烏龍茶を買っていく。それが一度激しく大地にたたきつけられたものと知らずに。
※一部フィクションです。多分。